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Het Geheim マジックの秘密

オランダ映画 (2010)

マジックを中心に据えた子供映画が皆無に近いので紹介したが、あまり好きな映画ではない。基本的な構成がコメディなので、尋常でない 型破りの登場人物が何人も登場する。主役のベンには奇術が上手というだけでなく、とても10歳とは思えない仲裁能力がある。準主役の父は、何をやっても失敗するダメ男だが、40歳になるまでのダメぶりが紹介されず、近々の森林警備隊員としての失敗と、奇術中の失敗だけしか描かれず、説得力がない。ベンの奇術のアシスタントとなるシルヴィーが “消える” 動機があまりにも利己的で、前後見境のない行動は信じられないとしか言いようがない。そのシルヴィーの母の行動も、乳母の諫める言葉一つで “なぜか” が分かる仕組みになっているが、どうみても嘘っぽい。そして、その乳母は、全能の神のように賢い。ストーリーはそれなりに奇抜で、楽しいのだが、人物設定がこの体たらくでは観ていて不審感しか覚えない。受賞歴はマイナーな映画祭の観客賞が2つと、その他2つ。IMDbは6.6。

ベンは、有名なマジシャンのショーを父と一緒に見に行き、鮮やかな消失マジックに魅せられる。その直前、父は、何度目かの失職を経てありついた森林警備隊員の職も、まともにこなせずクビに。学校でバカにされ、それを見ていた転校生で大金持ちの少女シルヴィーに同情される。シルヴィーはベンのマジック好きに興味を惹かれ、それがベンをプッシュして、父と一緒に同じ町に住む引退した手品師の弟子になる。ここでも、すぐに上達したのはベンで、父は、何をやってもダメ。それでも、シルヴィーをアシスタントに加えた3人で、アマチュアの手品師として小さなショーを図書館の一角で開催。その後、師匠の手品師からの技の伝達が進むとともに、演じる手品の種類も増え、何事にもダメだった父も観客を笑わせるまでになって行く。問題は、マジックコンベンションを2人で見に行った時に起きた。そこでは、消失マジックも展示されていて、父は、それを何度か見るうち、秘密を解明したと思い込み、そのトリックを再現するように、マジック・クローゼットを自ら作り上げるが、なぜか、トリックの秘密をベンに教えない。そして、100人ほどの観客を前に、シルヴィーをクローゼットに入れ、消してみせたことはいいが、何度やっても、現われてくれない。ベンと父だけでなく一家で必死にシルヴィーを探すが、彼女はどこにもいない。父は、シルヴィーが、手品の口上で述べたリンボ〔中間の世界〕に行ってしまったと思い込み、シルヴィーの母の訴えで駆け付けた警察にも恐らくそのことを話し、マスコミにも大きく取り上げられる。しかし、実際には、シルヴィーは消えたのではなく、勝手に逃げ出して家に帰り、自分の部屋の中の誰も気付かない天井近くの棚の中に身を隠しただけ。理由は、彼女を無視し続ける母親に対する抗議だった。師匠の手品師から、「君が何かを見ていると思っても、実際には別の物を見ている… それが幻影なんだ」と教えられたベンは、シルヴィーの部屋に侵入し、そこで隠れていたシルヴィーに会う。しかし、シルヴィーは、ベンが、自分達が多大の迷惑を受けていると訴えても、姿を見せたら母に叱られると言って拒否する。困り果てたベンは、妙案を考え、最初に消失マジックを見た有名なマジシャンの協力を得て、シルヴィーが現われても母親に叱られないよう、大晦日のマジック・ショーで大胆なマジックに挑戦する。

ベン役は、ソア・ブラウン(Thor Braun)。2000年2月12日生まれ。撮影は、メイキング映像から2010年5月なので、撮影時は10歳。これが、映画初出演。その後、現在に至まで主としてTVで活躍しているいが、子役時代にパッとしたものは他にない。

あらすじ

映画は、有名なマジシャン、ハンス・シュミッドの大道具を使ったマジック・ショーから始まる。複数のマジックが紹介され、最後は、ガラスの箱に入ったアシスタントが、布を外すと消えるという定番の消失マジックで終わる(1枚目の写真)。マジックを父と一緒に観に来た10歳のベンは大喜び。右隣の父も、子供のように嬉しそう(2枚目の写真)。ショーは一家で観に来たのだが、ベンの左隣の姉は実にクールで全くの無関心。帰りのバンの中で、ベンは、「どうやったのかな? 隠し扉かな?」と最後の消失マジックについて訊いてみる。父は「無理だ。あまりに早過ぎる」と言うが、母は 「大声はやめて。双子が眠ってる」と夫をたしなめる。ベンが、もう一度 「どうやったのか、知りたいな」と小声で言うと、姉は 「どこが そんなに面白いの?」と言い、母は 「結局、錯覚よ」と こちらも感激はない。「錯覚って何?」。父が 「お前が何かを見ても、それはホントの物じゃないんだ。お前は、何か別の物、見たと思った物を見たんだ」と、ベンに説明する。

家に帰ったベンが、自分の部屋に行き、パソコンをつけ、マジック・ショーの紙を見ていると、父が入って来て、「今 何時か知ってるのか?」と、注意される。「彼のウェブサイトを見れば、どうやったのか書いてあるかも」。「そうは思わんな。もう寝るんだ」。ベンは、仕方なくベッドに行くと、「僕、マジシャンになりたい」と言う(1枚目の写真)。父は、「俺が、それ得意なのを知ってるか?」と言うと、ポケットから10セント貨を1個取り出して親指と人差し指で挟むと、「良く見てろ。消えるぞ」と言い、コインを両手でつかんだあと、握りこぶしを2つベンに見せ、手を開いて どちらも空だと自慢するが、その前に、コインが落ちる音を耳にしたベンは、遠くの床に落ちていたコインを拾う。そして、逆襲しようとして振りかえると、父の姿がない。しかし、冷静なベンは、どこかに隠れたに違いないと冷静に判断し、父が入れそうな唯一の洋服ダンスに向かって、「パパ、洋服ダンスにいるね」と声を掛ける。すると、中から、「何で分かった?」と声がする。「出て来てよ」。しかし、扉に民芸的な絵の描かれた据え置き型の家具は、どうやっても開いてくれない。父の頼みでベンがドアを思い切り引っ張るが、びくともしない。そこで、母がバールを持って来てこじ開けることに〔あとで分かるが、父は 何をやっても失敗ばかり〕。翌朝、ベンは、ハンス・シュミッドのウェブサイトにアクセスし、「ハンス・シュミッド様。あなたのショーを見に行ったけど、すごかったです。消えるマジックの秘密が知りたくてたまらなくなりました。どうか、Eメールで教えてもらえませんか? ベン」と書いて、投稿する(3枚目の写真)。

ベンが朝食テーブルに行くと、そこには食パンの背の高い山が3つと、低い山が1つある。全部で60枚はありそうだが、家族は6人〔1人10枚〕。いったいどうなっているのだろう〔ランチのサンドの分が含まれるとしても、まだ多い〕。その場で、ベンは 父に、「マジシャンの学校ってある?」と訊く(1枚目の写真)。それを耳にした姉は、「あるわけないでしょ」とバカにするが、父は、一人でニコニコする。母とベンと双子は一緒に小学校に行く〔母は、この小学校で教師をしている〕。授業が始まると、ベンの担任の中高年の男性教師が、転校生のシルヴィーを紹介する。シルヴィーが席に着くと、それまで毎週続いていた「親の職業紹介」のプレゼンが始まる。教師は、先週は建築家の母親、先々週は弁護士の父親だったと言った上で、今度はベンの番だと言い、前に来るよう促す。ベンは、非常に行きなくなさそうな様子で、教壇に立った後もためらっていたが、「僕の父は、森林警備隊員です。森の小道と、木の維持管理が担当です」と読み始める。ここで、意地悪な生徒から、邪魔が入る。「違う! もう森林警備隊員じゃない。クビになった」。教師が、「マーティン、ベンは始めたところだ」と注意するが、それにお構いなく、「クビになった。3回木から落ちたから」と付け加え(2枚目の写真、矢印は意地悪マーティン)、生徒達から笑い声が起きる。ベンはがっかりして、みんなの前で立ち尽くす(3枚目の写真)〔映画の進行上やむを得ない選択だが、「なぜ、教師の母についてプレゼンしなかったのだろう?」という疑問は残る〕

休み時間の間、校庭で、ベンが一人離れて寂しく木にもたれて、マジック・ショーの紙を見ていると、そこに新入生のシルヴィーが寄って来て、「ここには嫌な奴が多いのね」と批判し(1枚目の写真)、「あなたもそう?」と訊く。ベンは、首を横に振る。「パパの話、ホントなの?」。頷く。シルヴィー:「私、登るのが上手」。ベン:「僕は、手品」。次に映るのがシルヴィーの引っ越してきた家(2枚目の写真)。写真以上に広いイタリア式庭園から見て、家というよりは、イタリア風の “ヴィラ” に近い豪邸だ。シルヴィーの部屋に行くと、ベンは、扇風機を回して風を送り、シルヴィーは体操用のレオタードにフリルのついたスカートをはき、マジック・ショーのアシスタントの真似をする(3枚目の写真)。そして、最後にベッドからマジック・クローゼットを模した “囲い” の中に飛び降りて体を縮める。ベンは、その上から上等のベッドカバーをかけ、手をかざす。シルヴィーが、「それから?」と訊くと、「知らない。秘密なんだ」と、不満そうに言う。その時、1階から、「シルヴィー!」と呼ぶ声が聞こえる。シルヴィーが下まで走って行くと、そこに立っていた母が、厳しい口調で、「コビー伯母さん〔シルヴィーが飼っているウサギ〕はどこ?」と訊く(4枚目の写真)。そして、「午後、仕事仲間にティーを出すことにしてるの。早く探してきなさい」と命じる。シルヴィーがいなくなると、ベンに、「あなたは?」と訊く。「ベン」。母親は、ベンに向かって手を差し出す。ベンが手を取ると、「私はミレーネ・ブシュマーカー」と言い、「何してたの?」と訊く。「マジック」。「面白い」。そこに、ウサギを抱いたシルヴィーが現われる。母は、「今度やったら、コビー伯母さんは、動物保護施設へ直行よ」と言い、立ち去る。非常に冷たい女性だ。

ベンが家に戻り、シルヴィーのことを話すと、姉は、「あの、すっごく大きな白い家?」と、興味津々。ベン:「ママは銀行のお偉方。彼女は一人っ子で、両親は離婚してる。ルーマニア人のベビーシッターがいるんだ」。そこに、入って来た父が、「優しくて、思いやりのあるハンサムなお父さんは、今日素敵なものを見つけたぞ」と言い、ベンを連れて変わった外観の家に連れて行く(1枚目の写真)。そこの門柱には、「W. ブルラーヘ/手品師」と書いてある。話を聞いた手品師は、「私に、手品を教えろと言うんかね?」と訊く。ベンは、「うん。でも、僕がホントに知りたいのは大きな消失マジックの秘密なんだ」と、たっての希望を口にする。しかし、手品師は、「手品や魔法について話すのは構わんが、種明かしは好まんな」と、きっぱり拒絶する。そして、代わりに、「我々の生活の中には、手品が染み込んでいる。我々は1つの大きな手品の中に生きているとも言える」と言い、父の安っぽい上着の中に手を突っ込むと、1枚のきれいな柄の布を取り出し、その布をさっと払うと、手品師の指の上に1羽の鳩がいる(2枚目の写真)。それを見たベンは、目をランランと輝かせる。「私は、世界中の主要な都市で成功を収めた。だが、それは過去の話。最近は、若い才能の訓練に時間を費やしてきた。皆、とても成功している」。一家は、その後、森でランチを取る。その場で、父は、「俺がどうすると思う? 手品のレッスンを受けることにした」と言い出す。ベンは、「『若い才能』って言ったよ」と言うが、「年配の『若い才能』もあるんだ」と、気にもかけない。そして、ベンに向かって、「俺たち、コンビになれるぞ。俺が大きな手品をしている間、お前はアシスタントになればいい」(3枚目の写真)〔何をやっても失敗する男が、手品などできるハズがない〕

親切な手品師の最初のレッスン。ベンと父の前で、基本中の基本。1個の玉を見せ(1枚目の写真、矢印)、如何にも手品師らしいやり方で、玉を消してみせる。その後、2人にそれぞれ玉を渡して、馴染ませる。次のシーンでは、ベンが手に持った布の中からハトが出てくる(2枚目の写真、矢印)。校庭で、シルヴィーがベンに、「あなたの助手になってあげましょうか?」と親切に申し出る。「すごく敏捷じゃなきゃダメなんだ」。「ずっと、体操やってきたから大丈夫」。さっそく2人の練習の一コマ。シルヴィーが持ったシルクハットの中に、ベンが裂いた新聞紙を押し込む。そして、帽子の上で小さな杖を回しながら呪文を唱えると、帽子の中から折り畳んだ新聞紙を取り出し、破れていないことを見せるために拡げる(3枚目の写真、矢印)。成功裏に終わると、パソコンをつけてハンス・シュミッドからの返事が来てないかチェックする。幸い、返事は来ていたが…「ベン君。ショーを楽しんでくれて嬉しいよ。だが、大消失マジックの秘密は教えられない。それがマジシャンの掟だ。何度も見てれば、どうやってるか分かるかも。じゃあな。ハンス・シュミッド」。物事は、ベンが考えるほど甘くない。シルヴィーは、ベンの家族と一緒に夕食を取る。シルヴィーのマジック・ショーへの参加に、物分かりのいいシルヴィーの乳母は賛成だし、冷たいシルヴィーの母親は、話そうにも、そもそも家になんかいない。

地元の図書館の前に立てられた小さな掲示板。そこには、「今日、午後2時/スティッカー&ソン/マジック・ショー」と書いてある。小さな図書館なので講堂などはなく、読書コーナーの一角を仕切っただけの舞台。観客も、ベンの一家4人(母、姉、双子)の他に15人ほど。それでも、初舞台なので、父は緊張し、時々ベンに助けられないと、挨拶もできない。しかも、最初の手品は失敗。しかし、それ挽回したのはベンで、これも定番のマッジクリングを練習通りにこなす(1枚目の写真)。小さな箱の中から布の束が出てくるマジックは、父がやって失敗。ベンが受け取って、今度は成功。父が、聴衆の中で、バッグを貸してくれる人を募集し、手を上げた女性のところにシルヴィーが取りに行き、テーブルの上に置く。そして、ベンが中からシルヴィーのウサギ、コビー伯母さんを取り出す。急に高度になった手品に拍手。ショーが終わり、楽屋に入ってきた母が、3人の写真を撮る。そして、それが派手なポスターに(2枚目の写真)。錆の目立つバンにパープル色のペンキを塗り、「スティッカー&ソン」を黄色、「マジック・ショー」を赤で書く。そして、いざ出発(3枚目の写真、ベンの家が〔一部だが〕映っているのは、あらすじの中でこの1枚だけ。なかなか可愛い家)。

手品師の次なる指導は、これも定番の ゾンビボール(1枚目の写真)。2枚目の写真は、口からトランプを出す手品。次のシーンは、手品ではなく、シルヴィーが競技会で平均台の上で演技をしている。観客席ではベンの一家が全員揃って応援している。シルヴィーの母は、当然〔一度たりとも〕来ていない。そして、マジック・ショー。場所はミニ講堂だが、観客は20名ほど。しかし、父もようやく慣れてきて、もう物怖じなどせず、堂々と振る舞っている。ベンの手品も、なかなかのもの(3枚目の写真)。見に来た師匠も、よく出来たと大喜び。その後も、コンビの腕はどんどん上達し、少額だがお金も手に入るようになる。

ベンと父は、ある夜、マジックコンベンションを見に行く。そこでは、多くのマジシャンが得意のマジックを何度も繰り返し演じて見せている。そこで、ベンは、タイプは違うが、消失マジックに出会う(1枚目の写真)。2人の唖然とした顔が面白い(2枚目の写真)。父はさっそくそれを仕切っているマジシャンに値段を訊くが、それは信じられないほどの高額。そこで、父は、繰り返し演じられる消失マジックをじっと見ることで、謎を解こうとする。翌朝、母がクリスマスツリーの準備をしていると、小屋から金槌の音が聞こえてくる。ベンが見に行くと、父は、木でフレームを作っていた(3枚目の写真)。ベンの姿を見た父は、内緒とばかりに、ドアを閉めてしまう。

ベンはシルヴィーに会いに行き、父がマジック・クローゼットを作っていると打ち明ける。ベン:「だから、分かったんだ」。シルヴィー:「ホントに?」。「うん」(1枚目の写真、左にいるのは乳母)。そして、「君に入って欲しいって」。「もう入ってるじゃない」。「消失マジックにだよ」。ここで、話が逸れ、棚の上の写真立てに入っている男性を見て、ベンは、「あれ、君のお父さん?」と訊く。「ええ、外国に住んでるわ」。「それじゃあ、見に来れないね。お母さんみたいに」と言う(2枚目の写真)。これは、重要な言葉で、それを聞いたシルヴィーは、ある決心をし、「私、中に入るって、あなたのお父さんに言って」と乗り気になる(3枚目の写真)。「どうせできないんだから、やらなくていいんだよ」。「助けなきゃ」。「なぜ?」。「いつも元気づけて下さるから」。

そして、いよいよ、マジック初演の日。いつものポスターには、「劇的な新作」という大きな文字が入っている。楽屋では、父がシルヴィーにどうすればいいか、教えるのに余念がない(1枚目の写真、矢印は疎外されたベン)。ベンがじっと見ていると、父は、マジック・クローゼットに布をかけてしまう。あくまで、その時まで、すべてを秘密にしておくつもりだ。寂しそうなベンを見た父は、指導が終わった後、「どうした?」と訊く。「僕、もう仲間じゃない」。「違う。なぜだ?」。「秘密を教えてくれないなら…」。「ちゃんと見てろ。終わったら教えてやる」(2枚目の写真)。

そして、遂にショーは始まる。これまでで一番大きな劇場で、観客は100名以上いる。いつも通り、3人が、ポスターのように仲良くポーズを取るところからスタート(1枚目の写真)。最初の演目は、ベンのゾンビボール(2枚目の写真、矢印)。空の檻の中から コビー伯母さんが現われる手品の後は、父が “何度でも水が出るポット” を演じる(3枚目の写真、矢印は5-6度目の水)。ベンがマジックリングをやった後は、父のマジックロープと、ベンのボール。

そして、父が、遂に、大きなマジック・クローゼットを舞台に引っ張り出す。箱の扉が開き、中にシルヴィーが入る(1枚目の写真)。そして、扉を閉め、鍵を掛け、箱を何度も回転させ、父がポーズを取り、鍵を開け、扉を開けると、中にいたシルヴィーは消えている(2枚目の写真)。大きな箱の割に少女が小さしい、回転時間が長いので、冴えないマジックだが、拍手は起きる。「紳士、淑女のみなさん。シルヴィーは、今、リンボ〔中間の世界〕にいます。でも心配は要りません。オリエントを何度も旅するうちに、私はリンボの秘密を解くことができました」。そう言うと、再び扉を閉め、錠をかけ、3つカウントして扉を開ける。しかし、そこにいるハズのシルヴィーはいない。父は、これもジョークだとばかりに、もう一度扉を閉め、3つ数えて開けるがやっぱりいない(3枚目の写真)。

観客が解散した後、ベンとその一家は、広大な会館内を探し回るが、シルヴィーは見つからない。最後に、父はマジック・クローゼットを解体するが、もちろん、そんなことをしても 何の意味もない(1枚目の写真)〔小鳥なら、どこかの隅にいるかもしれないが〕。この能天気な父は、その場ですぐに警察に通報せず、そのままバンを運転して一家ともども家に帰る。幼い双子が眠った後、妻は、次にどうするか夫に尋ねるが、彼は “打つ手がない” と両手を上げただけ。妻は 「シルヴィーのお母さんと、警察に電話した?」と訊く。いいや(2枚目の写真)。「なぜ。してないの?」。「そのうち現われると思ったから」。その、あまりの無責任な返事に、妻は 「あの子、どこ?」と再度訊き直す。「分からん」(3枚目の写真)。そして、よりによって、「リンボ」とマジックで使った時の観客向けの言葉を口にする。「ナンセンスはやめて! どんなトリックだったの?」。「マジシャンは決して種明かしを…」。呆れた妻の顔を見た夫は、「シルヴィーは二重の壁の間に潜り込むことになってた」と、説明する。それを聞いたベンは、「それが秘密なの?」と素直に驚くが、妻は、そんな単純な機械的マジックでシルヴィーが消えるハズはないので、「今すぐ、シルヴィーのお母さんに会いに行かないと」と言う。ベンは、この先も、シルヴィーとマジック・ショーを続けたいので、「無理だよ。お母さんは仕事でいないんだ。シルヴィーがそう言ってた。シルヴィーのお母さんってすごく怖いよ。すぐに怒るし。マジックへの参加は二度と許さないだろうし、また引っ越しちゃうかも。シルヴィーの乳母さんに電話して、眠っちゃったと話したら? その間に、シルヴィーを探せばいい」と、ある意味、これも無責任な発言。シルヴィーが消えたことが異常事態にもかかわらず、なぜか、常識人の母までが、このベンの案を受け入れ、「1日待ってあげる」と言う。

翌日の学校。ベンは、「シルヴィーは僕の家にいます。でも、病気なんです。父さんがそれを書きました」と言って(1枚目の写真)、教師に紙を渡す。学校の帰り、ベンは、親切な手品師に助けを求めようとするが、不在。しかも、その手品の家の前で、シルヴィーの母が乗った車が帰宅するのを見てしまう。ベンは、すぐ家に帰り、「彼女、戻ったよ」と報告する(2枚目の写真)。“彼女” を “シルヴィー” を勘違いした父は、「言ったろ!」とガッツポーズを取るが、「違う、シルヴィーのお母さんだ」の言葉に、「もう、どうしていいか分からん」(3枚目の写真)。この言葉で、“これまで ダメ夫のために苦労してきた” 母と、父の間で口論が始まる。

父は、シルヴィーの母に会いに行き、ベンもそれに同行する(1枚目の写真)。2人は、応接間に通され、シルヴィーの母が、「どんなご用でしょう?」と尋ねる。もたもたして何も言えない父に代わり、ベンが、「シルヴィーと僕は友だちです」と言う。でも、そんなことは、以前、家で会ったので彼女は先刻承知。「分かってるわ。でも、シルヴィーは寝坊してるみたいね。私、さっき、出張から戻ったばかりなの」。ここで、ようやく父が口を開く。「彼女は寝坊していません。私はマジシャンです。アマチュアですが。実は、森林警備隊員ですが、ク〔ビになりました〕…。関係ないですよね。妻は小学校の教師です。私は、他の〔仕事を探しています〕…。関係ないですよね」(2枚目の写真)。ここで、ようやく父は本題に入る。「シルヴィーは、マジック・ショーについて話しましたか?」。「マジック・ショー? ええ、話しましたわ」。「ベンと私はマジック・ショーをやっていて、シルヴィーはアシスタントなんです。とっても素晴らしくて、機敏で、足をこんな風に…」と、手でやってみせる。いい加減、業を煮やした母親は、「シルヴィーが寝坊していないのなら、どこにいるのです?」と訊く。ここで、また、父は言葉に詰まる。ベンは、「消えました」と答える(3枚目の写真)。「リンボにいます」。「リンボ? それは、どこにあるの?」。「木の箱の中の、二重壁の中に」。「木の箱?」。「マジックの道具です。シルヴィーは消え、戻って来ません」。「あの子が、消えたとおっしゃるの?」。「そう思います」。

家に戻って来た父は、「どうだった?」と妻に訊かれると、「考えてみれば悪くない。彼女は、俺を訴え、刑務所にぶち込む気だ… 損害賠償も求めてる。それだけ。悪くないだろ?」と答える(1枚目の写真)。妻は、我慢の限界を超え、何も言わずに2階に行く。「ローラ、頼む、待ってくれ」。「もう、うんざり。すべて、あんたのせい。あんたと、あのバカげたマジックのトリックのせい」。その後も、一方的な批判が続き、姉は2人の離婚を心配する。すると、玄関のドアが強くノックされ、ベンが開けると、そこには2人の警官が(2枚目の写真)。父は、警官2人に起きたことを説明し、ベンは、階段の柱につかまって、その何とかその様子を見ようと必死だ(3枚目の写真)。

翌朝、ベンがクラスに入って行くと、待ち構えていた教師はベンを前に呼び、「昨夜のTVニュースを録画しておいた」と言うと、わざわざ教室に持ち込んだTVで録画したニュースを、他の生徒の前で再生する(1枚目の写真)。内容は、①ベンと父のマジック・ショーの下らない消えるマジック、②2日間、娘が病気で寝ていたと嘘をついた、③警察が捜査中、④シルヴィーはどこに? 失敗したマジックの犠牲者なのか? 再生が終わり、教師が問題にしたのが、ベンが、シルヴィーが病気だと嘘をついたこと。ベンは、すぐに校長室に行くよう命じられる。次のシーンで、うなだれた姿のベンが廊下を歩いて行くと、その姿に気付いた母が、教室のドアを開け、「ベン」と呼びかける(2枚目の写真)。「どこに行くの?」。「停学になっちゃった。TVニュースに出てたから、みんな知ってる」。そう言うと、学校を出て行く。向かった先は、前回留守だった手品師の家。彼は、マジックで、本当に人が消えることなどあり得ないと十分承知しているので、非常に貴重なアドバイスをベンにする。彼は、「君が何かを見ていると思っても、実際には別の物を見ている… それが幻影なんだ」と、手品の根本原理を言った後で、古典的な “だまし絵” をベンに渡す(3枚目の写真)〔普通に見ると怒った男女に、上下逆にすると笑った男女に〕。そして、「君が見たこと〔シルヴィーが消えたこと〕は、本当に起きたのか? それとも、君がそう思ってるだけなのか?」と問いかける。

ベンは、何か情報が得られないか、シルヴィーの部屋に行こうと庭に潜入。シャクナゲの葉影からシルヴィーの怖い母親が車で出て行くのを見て、玄関に近づいて行く。すると、乳母がゴミを持って出てきたので、刈込の後ろに隠れ、乳母がゴミ袋を地面に置いている隙に、後ろを駆け抜けて玄関に(1枚目の写真、矢印)。中に入ると、すぐにシルヴィーの部屋に入り、何か手掛かりがないかとベッドの下まで見る(2枚目の写真)。そして、棚の上の父親の写真を見ていると、そこに反射して映った映像が動いたのに気付き、上を見上げると、何と、天井近くの棚からシルヴィーが覗いている(3枚目の写真)。

「そこで、何してるの?」。「こっちこそ訊きたいわ」。「君、消えたんだよ」。「消えてない」。「消えたよ。みんな君を探してる」。棚から降りたシルヴィーに、ベンは、「何が起きたんだ?」と説明を求める。「誰にも言わないで」。「いいから話せよ」(1枚目の写真)。そこで、シルヴィーは、ベンの父がマジック・クローゼットを回転させた後、裏蓋からこっそり抜け出し(2枚目の写真、矢印)、舞台上に置いてあった箱の裏を這って外に出ると、楽屋で上着をはおり、バスに乗って家の近くまで帰ると、玄関の周りに半円形に並ぶギリシャ神殿柱の1本に付けられた植物を絡ませるための金属格子を伝って2階に上がり(3枚目の写真、矢印)、自室に隠れたと話す。「なんでさ? 僕たち、バカみたいだった。あちこち、君を探したんだぞ!」。

もっと文句を言いたかったろうに、乳母が2階に上がってくる音が聞こえたので、シルヴィーは大急ぎでベンを上の棚に押し上げ(1枚目の写真)、自分も中に隠れる。間一髪で間に合い、乳母が部屋に入って来る(2枚目の写真)。棚の中では、ベンが小声で、「なぜだ、シルヴィー?」と尋ねる。「お母さんは、絶対見に来ない。お父さんも、絶対。体育の試合も一度も見に来なかった。何をやっても、一度も来てくれない」。「どうして?」。「私が何かする時は、いつも会議か出張。ずっと、そのくり返し。お金を稼ぐのが、何より重要なんだって」(2枚目の写真)「でも、あなたの家族はいつも見に来た。いつだって」「彼女〔母〕を、うんと怖がらせてやる。私がいなくなっちゃうと、どんな気がするか味合わせてやるのよ」。

シルヴィーは、ベンの一家の迷惑も考えず、それだけ言うと、ベンを帰らせる。しかも、玄関は通れないので、植物を絡ませるための金属格子を伝って地面まで行くよう促す。シルヴィーのように体操の選手ではないベンにとって、これは命がけの行動だったが(1枚目の写真)、他に方法がないので、何とか無事に地面まで到達。下まで降りたベンに、シルヴィーは、「誰にも言っちゃダメよ」と念を押す。「なんで?」。「誰にも。約束よ」。ベンは、憮然とした表情で、街なかを歩いて家に向かう(2枚目の写真、矢印は、シルヴィーを探すポスター)。自宅近づくと、ベンは、待ち受けていた報道陣に囲まれ、嫌な思いをする(3枚目の写真)。夜、一家は居間でTVを見ている。無責任なアナウンサーは、事件を 「トリックをマスターしていない、不器用なアマチュアのマジシャンによる致命的なミス」 と解説している。

2つのバラバラだが重要なシーン。1つ目は、翌日、ベンがわざわざコビー伯母さんをシルヴィーの部屋まで運び上げるのに協力した後の会話。ベン:「もう、そろそろ、姿を現してよ」。シルヴィーはウサギに気を取られてベンの話など聞いていない。「聞いてるの? 警察は、僕たちにしつこく付きまとってる。TVのクルーは、ウチの前でキャンプまでしてるんだ。パパとママは、離婚する気だ」(1枚目の写真)。その切実な言葉、自分が他人にかけているひどい迷惑を聞いても、この自分勝手な少女は、「私のしたこと、ママが知ったら激怒するわ」と言っただけ。「そんなこと、やる前から考えとけよ」。「ママ、何しようとしたと思う? コビー伯母さんを動物保護施設に入れようとしたのよ。もらい手がなかったら、殺されちゃう。もう戻れないわ。絶対」。2つ目は、同じシルヴィーの部屋で、時間は夜。母が別れた父に、写真立てを見ながら携帯で電話している。「今、彼女の部屋にいるわ。メリー・クリスマス。ううん、いそうな所は、皆さんがすべて探したわ。学校。友だちの家」。「体操クラブは?」。「そこにも行ったけど、いなかった」。電話が終わると、乳母が声をかける。「体操クラブの場所、ご存じなのですか? 一度も行かれたことがないから、ご存じないのでは? 見に行きたかったけど、怖かった。そうではありませんか?」(2枚目の写真)「あなたはシルヴィーを愛してらっしゃいます。だから、怖れることは間違いです。腕や脚を折ってらしたかも。手品師もそう。あなたは、ノコギリで切り始めるんじゃないかとか、悪いことが起きないかと怖れてらした。違いますか? だから、いつもシルヴィーに嘘をついて」。

ベンの一家が、侘しいクリスマス・ディナーを食べ終わり、何もすることがなくぼーっとしていると、そこに現れたのは、マジシャンのハンス・シュミッド(1枚目の写真)。彼が来た目的は父を責めるため。アマチュアのマジシャンがドジを踏み、シルヴィーはリンボに行ってしまったと公言したことで、消失マジックの評判が悪くなったというもの。そして、「女の子を戻さないと」と要求する。それを聞いていたベンは、「2人だけで、お話しできますか?」と、恐る恐るハンス・シュミッドに声をかける。ベンは、ハンス・シュミッドを自分の部屋に連れて行く。「で、何が話したいんだね?」。「解決策があるかも」(2枚目の写真)。「それは素晴らしい」。「もし、僕が手伝って…」。「うまくいけば…」。「消失トリックの秘密を教えてくれますか?」。「ダメだ。悪いが、マジシャンは決して秘密を洩らさない」。「彼女が戻って来なかったら、あなたは、あのトリックを二度と使えませんよ」。「じゃあ、君は、知ってるんだね? どうやって彼女が消えたか」。その時、ベンは “秘密だよ” という動作をする(3枚目の写真)。

翌日、ベンはシルヴィーに会いに行き、耳元で囁こうとする。「なぜ、囁くの?」。「安全のため」(1枚目の写真)。そして、もう一度囁く。「難しくて、ちょっぴり危険よね」。「戻って来て、コビー伯母さんとも一緒にいたいだろ?」。「ええ」。「じゃあ、これしかない」。次に、家に戻ったベンは、姉を説得し、ある役割を任す。そして、父の元に1通の手紙が届く。それは、ハンス・シュミッドからの、大晦日のショーへの特別ゲストとしての招待状。ところが、父は、「冗談だろ」と言って破いてしまう(2枚目の写真、矢印)。理由は、「自分に何かができるか、もう分からなくなった」という完全な自信喪失。そこで、一計を案じたベンは、手品師に頼む。手品師は、街なかを目立たないよう変装して歩いている父を大声で呼び止め、「何て不幸なんだ。もう一度やることができないなんて。私は、前に一度経験がある。現実と非現実の狭間の問題なんだ。もし、同じことをもう一度できるチャンスがあれば、驚くようなことが起きるのに」(3枚目の写真)と、シルヴィーの消失をリンボだと思わせて、焚きつける。単純な父は、この嘘に巧く引っかかり、ベンもホッとする。最後に、ベンの姉が、シルヴィーの母に会いに行き、ベンの父の娘だと告げた後で、「完全にバカげてて、私はぜんぜん信じてないけど、シルヴィーが戻ってくるかもしれない」と言い、それを聞いた母親は姉を家に招じ入れる。

そして、大晦日の日。場所は、アムステルダムとハーグの中間よりはハーグ寄りにあるライデンという町にあるライデン劇場(1枚目の写真)〔オタンダで現存現役最古(1705年)の劇場。客席数541〕。ベンと父は、ハンス・シュミッドお抱えの芸人たちの中を通って 準備中の舞台の上を歩いて行く。何となく不安そうな父に、ベンは、「パパ、僕が助けるから、言う通りにやって」と話しかける。父は、「これが巧く行ったら、お前は今後もショーを続けるんだ。ただし、俺抜きで」と、既に弱気。ベンは、「パパは木を登るのは下手だし、マジックも、その他も全部下手だけど、代え難いすごいトコがある」と勇気づける。「何だ?」。「人を笑わせる」(2枚目の写真)。「そうか?」。「他に、そんなことのできる人いないよ。それって、すごく大切なんだ。時に、マジック・ショーではね」〔どちらが父で、どちらが息子か分からない〕。マジシャンの服装に着替えた父が、舞台の緞帳を開けて客席を覗くと、TVのカメラマンがいっぱいいる。それを見た父は急に元気をなくし、劇場から逃げ出す。この本質的なダメ男にお灸をすえたのは、シルヴィーの母すら諫めた乳母。彼女は、「マジシャンが怖がっていると、消えた女の子はきっと決して戻らない。彼の息子は見捨てられたと感じ、彼の妻は腹を立て続ける。彼は、すべてを元通りにできる一度きりのチャンスを逃してしまう。怖がる必要もないのに」と、父を鼓舞する(3枚目の写真)。こうして、弱虫のダメ男は舞台に戻る。

2人は、コミック・マジック〔komisch goochelen〕という新しい分野でのスターと紹介される。父は、「今年最後の目もくらむショーへようこそ。溢れんばかりのマジックとミステリーは、あなた方の心臓をドキドキさせ、驚きと狼狽で唖然とさせるでしょう」と、立派な口上を述べる。そして、始まるのはベンの手品。父はアシスタントに徹している(1枚目の写真)。そして、そこに大きな透明な筒が運ばれてくる。ベンがボランティアを求めるが、消えるマジックの失敗の後だけに誰も手を上げない。ベンが指名したのは、客席に座っていたハンス・シュミッド。マジックを仕切るのはベン。「紳士、淑女の皆さん。この2人の大きな男がここに入り、姿を消します。体重や身長は関係ありません。2人とも宙に消えるのです。あなた方は、新聞を読まれて、これは危険だと思われるかもしれません。だから、静かにして、僕に集中させて下さい」(2枚目の写真)。そして、2人は、父、ハンス・シュミッドの順に円筒の中に入る。中は結構狭いので、2人が向かい合って立つと、身動きできないほど。ベンが手で合図をすると、円筒の底から白煙が中に充満してくる(3枚目の写真)。円筒が白煙で完全に塞がり、背後から黄色のライトが当てられる。そして、ベンが壇上に上がり、筒に手を当て、1から4まで数え(4枚目の写真)、円筒を開けると、白煙の中からシルヴィーとハンス・シュミッドが現われる(5枚目の写真)。

「紳士、淑女の皆さん。我らが素敵なアシスタント、シルヴィーは、ついにリンボから戻りました」。シルヴィーは筒から出ると、ベンと並んでポーズを取る、背後に炎が舞う。スタンディング・オベーションが起き、シルヴィーの母は我慢できずに前に飛び出して行き、舞台から飛び降りたシルヴィーと抱き合う(1枚目の写真)。ベン:「マジックの世界に不可能はありません」。劇場には、シルヴィーの父も来ていて、彼女は、客席にいる父の所まで走って行って抱き着く。それを見た2階席の乳母は、とても満足そう(3枚目の写真)。

今度は、ハンス・シュミッドが仕切る。「紳士、淑女の皆さん。ベンは、私がこれまでに見た、最高の若手奇術師の1人です。ですが、問題が一つあります。マジックとミステリーの世界でさえ、すべてにその代償が必要です。 ベンはシルヴィーを連れ戻すのに偉業を成し遂げました。しかし彼はそれに多大な代償を払いました。彼の父は逝ってしまいました。何と悲しい終わり方。しかも、大晦日だというのに。 ベンはこのトリックの秘密を発見したばかりでした。そして、いくつかのトリックはうまくいきませんでした。おそらく、彼の父は 私たちと一緒にいたよりも、中間の世界でより幸せでしょう。シルヴィーと場所を交換することをいとわなかった男のために、私たちはしばらく沈黙しましょう」(1枚目の写真)。この言葉で、館内は静寂に包まれる。すると、天井の方から歌声が聞こえ、観客が上を見上げると、そこには、空中ブランコに座った父がいる(2枚目の写真)。父は、ブランコの上に立ち上がる。そして、体を揺らして歌っているうちに、バランスを崩し、後ろ向きに転倒、落下する(3・4枚目の写真、矢印)。観客が悲鳴を上げる。しかし、彼が落ちた場所は黄色の風船で埋め尽くされていた。

父は、その中から怪我もなく立ち上がり、再び拍手が起きる(1枚目の写真)〔ハンス・シュミッドの演出はさすが一流のプロ〕。父は、心配して心臓が張り裂けんばかりだった妻と抱き合う(2枚目の写真)。

ハンス・シュミッドは、ベンに話しかける。「で、分かったかい?」。「何が?」。「秘密」(1枚目の写真)。ベンは頷く。しばらく、シルヴィーや母を見ていて、振り返ると、ハンス・シュミッドの姿が消えている(2枚目の写真)。ベンは、カメラに向かってウィンクし(3枚目の写真)、そこで映画は終わる。

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